漆や漆器は海外で「ジャパン」とも呼ばれ、多くの漆器収集家がいるほどです。
しかし、日本の方でも漆器について深い知識を持っている方は少ないのではないでしょうか。
こちらでは、原料としての漆の基礎知識や漆器の豆知識をご紹介します。
これらを知ることで、より漆器が身近なものに感じられることでしょう。
この他、うるしや漆器のお話を1つ1つコンパクトにまとめて「まめ知識」としても公開してます。井助のインスタグラムで継続して順次アップしている内容になりますので、ぜひそちらもご覧ください。
「漆(うるし)」って何?
漆の木の表面に傷をつけ、そこから出てくる乳白色の樹液を採取したものが漆液の元になります。 この漆液をろ過し、木の皮などの取り除いたものを「生漆(きうるし)」と呼びます。 これが一般的な漆の元になるもので、このままでも摺り漆(すりうるし)として使われます。
漆の木は、日本や中国、東南アジアなどで生育し、以前は日本各地で漆を生産したようですが、現在では日本で使う漆の90%以上が中国から輸入されたものです。
日本産の漆は希少で価格も高い(中国産の5倍程度)ので、主に神社仏閣の補修などに使われています。
漆は天然のものですから、採取した国や産地により、また採取した年代や時期によって、 漆の成分が異なり、粘度や乾きの早さなどの性質が違ってきます。それらの性質を把握し、異なる漆を組み合わせるなどして、使用目的にあった適当な漆を作り出すことが漆を扱うノウハウとなります。
漆の精製作業
生漆にナヤシ(かきまぜて漆の成分を均一にする)やクロメ(加熱して余分な水分を取り除く)といった精製作業を行い、精製漆を作ります。 この漆は、透明な飴色で「透漆(すきうるし)」と呼ばれます。
また、精製作業において鉄粉をまぜ、酸化作用により漆を黒くしたものが「黒漆」で、皆さんが良く知っておられる黒い漆になります。
さらに、この「透漆」や「黒漆」に油分を加えて艶のある漆にしたり、「透漆」に顔料を加えて朱や緑といった「 色漆」をつくったりします。
漆の成分
漆はウルシオールという樹脂分が主成分で、その他に水分、ゴム質、酵素などを含みます。
この成分の割合は、採取される国によって異なっており、それぞれの漆の性質の違いになってきます。
例えば、日本とベトナムで採取される漆では、主成分のウルシオールの割合が大きく異なり、日本が2倍ほど多くなっています。
日本で使う場合、日本の漆の品質が最も良い、とされるのは、元々日本の気候や風土にあった成分の漆が採取されるからだと考えられます(もちろん、採取した後のろ過や精製工程の差もあります)。
漆の乾くメカニズム
漆が乾くメカニズムは、一般的な「乾く」という概念とは大きく異なります。 一般的に「乾く」というのは、水分が空気中に蒸発する、というイメージがありますが、漆は全く逆で、空気中の水分を取り込んで乾きます。
漆が乾くというのは、成分の酵素(ラッカーゼ)が、水分の中の酸素を取り込んで反応し、ウルシオールが液体から固体になっていくことです。
ですから、漆を乾燥させるには、温度が25~30℃、湿度が70%程度が最も良いとされ、漆が乾くというのは、成分の酵素(ラッカーゼ)が、水分の中の酸素を取り込んで反応し、ウルシオールが液体から固体になっていくことです。
ですから、漆を乾燥させるには、温度が25~30℃、湿度が70%程度が最も良いとされ、日本では梅雨時期が最も乾燥が早くなります。梅雨時期や夏場は気候的にも乾きやすくなりますが、それ以外の時期でも漆を乾かすため、「漆風呂」「むろ」と呼ばれる漆用の乾燥室を使います。
密閉できる棚のようなもので、下部に濡らした布を置き、湿度を調整します。
最も簡単な「むろ」としては、衣装用のプラスチックケースを使い、やはり下部に濡らした布を 置き密閉します。
漆の塗膜の特徴
漆塗りというと、扱いにくい、はがれやすいといったイメージがありますが、これは全くの間違いです。
漆の塗膜は堅く、また非常に柔軟でもあり、現代の一般的な化学塗料よりも強靭で優れた性質をもっています。
酸、アルカリ、塩分、アルコールにも強く、また耐水性、断熱性、防腐性なども高いということも 特徴です。
また、接着剤としても優れており、陶磁器を修復する「金つぎ」や、染型を作るときに紗に型紙を張る工程などで、古くから接着剤として漆が使われてきました。
ただ、漆は紫外線にはあまり強くありませんので、屋外で使用する際には塗り替えなどが必要になってきます。
漆塗りの漆器を保管する場合でも、直射日光を避けた方が良いでしょう。
また、漆は乾くのに時間が掛かるという特徴があります。
このために1つの漆器を塗り、仕上げるためにも長く時間が掛かってしまうのですが、逆に漆がゆっくりと乾くことを活用して、蒔絵や沈金といった漆塗り独特の加飾が可能になるのです。
「漆黒」という言葉
「漆黒の闇」とか「漆黒の髪」といったように、 深みがある黒や光沢のある黒をあらわす時に「漆黒(しっこく)」ということばを使います。
辞書で調べると、「漆のように黒く光沢のあること。また、その色。」(「大辞林 第二版」より)ということなのですが、この言葉は、実は漆のある特性をよく表している言葉だと思います。
上記で説明させて頂いたように、精製された漆は、元々茶色がかった透明をしており、黒以外の色漆(朱色など)は、 この透漆に顔料を混ぜることで色を出すのです。
ただし黒色だけは、精製の段階で鉄分を混ぜ、鉄の酸化作用によって、漆自身が黒色に変化したものなのです。
いわば漆の黒色は他の黒色とは異なり、漆でしか出せない 漆特有の黒色、「他にはない黒」ということになります。
ですから、その深みがあり光沢のある黒色を、漆独特の黒色になぞらえて「漆黒」と呼ぶようになったのでしょう。
はじめてこの話を聞いたとき、漆や漆器に携わる身として、「他にはない黒」というフレーズになぜか嬉しくなったのを覚えています。
漆器の艶やかな黒を見るとき、ちょっとこの話を思い出して頂ければ嬉しいです。
漆の色合い
黒以外の色は、「透き漆」というベースになる漆に 顔料を混ぜてできるのですが、元々この「透き漆」があめ色がかった半透明をしているため、いくら顔料を混ぜても、淡い色合いを出すことはできません。
ですから、一般的な漆の色合いとしては、朱(いわゆる赤色)、洗朱(オレンジのような色)、緑、黄色などで、どれも濃い目の色合いになります。
そして、漆では淡い色合いがでない、という最も端的な例は「白漆」です。 これも、ベースの漆のあめ色に白の顔料を混ぜるのですから、 決して真っ白にはならず、いわゆる「ベージュ」のような色になります。
このことを知らずに白漆の塗られた漆器を見られた方は、間違いなく その色を「白」というふうには表現しないだろう、と思います。
ですが、この「白漆」の色は、なんとも落ち着いた色合いで、ひとつの独立した魅力的な色合いとなっています。
この本当の「白」ではないけど「白漆」の「白」という 独自の色合いを楽しむ、というところが、また漆の面白いところかもしれません。
ただこの白漆はくせもので、顔料の混ぜ方はもちろん、 塗り方や塗った時の温度や湿度などの環境の違いで、色合いが異なってきます。
このあたりが、塗師屋の腕の見せどころでしょうか?
漆器の素材
一般に漆器と言われるものの素材でも、木曾ヒノキやケヤキなどの高級木材を使用したものから、樹脂製(プラスチック製)の工業品まで品質は実に様々。
現在、一般に流通している漆器の主な素材を以下にまとめました。
なお当店では、基本的には木製、あるいは木粉と樹脂の成型品(木紛加工品)を中心に扱っております。
商品ごとに素材欄を設けてありますのでご確認ください。
- (1)木製
- 最も一般的で、木としては欅(ケヤキ)、ミズメ桜、栃、センノキなどが使われます。
用途や価格などにより使い分けますが、特に欅は木目も美しく、漆器の素材として、 最高級の木とされています。 - (2)木粉と樹脂の成型品(木紛加工品)
- 木の粉に樹脂をまぜて、型を使って固めたものです。天然木加工品や木乾と呼ばれることもあります。
木製に比べて価格を抑えることができ、複雑な形に成型できるのも特徴。
木製のものに比べると、少し重くなり、また質感などはやはり落ちますが、耐久性は木製のものと比べても遜色ありません。また、プラスチックよりは木の質感に近いといえます。
なによりお手頃な価格で漆器の感覚を味わえるのが魅力です。 - (3)プラスチック、ABSなどの樹脂製
木紛加工品と違い、樹脂だけを固めたものです。やはり質感などがかなり落ちます。 当店ではほとんど取り扱っておりません。
その他、布を漆で貼り重ねて造形する乾漆や、竹を編んで素地にする藍胎などもございます。